コミックへの抗議と、謝罪文の掲載
集英社は1989年12月号の「マーダーライセンス牙」のページに、「スーパージャンプ」編集部と作者の平松伸二先生の連名で謝罪文を掲載した。
スーパージャンプの「マーダーライセンス牙」
集英社(東京都千代田区)はかつて、漫画誌「スーパージャンプ」を発行していた。
そこに「マーダーライセンス牙(きば)」(平松伸二さん作画)という漫画が連載されていた。
1989年10月号の「マーダーライセンス牙(きば)」の第14回「罪の清算」に、誹謗中傷のような表現が含まれているという指摘が出た。
九州の死刑廃止運動団体「うみの会」(約20人)などが抗議した。「実際の事件、人物をモデルにわい曲して作品化し、死刑廃止運動を侮辱している」という抗議内容だった。
集英社側は「スーパージャンプ」12月号(1989年11月10発売)に「関係者に迷惑をかけ、読者に誤解を与えた」と謝罪文を掲載した。
漫画は、凶悪事件やテロを秘密の内に解決する青年「牙」が主人公。
15年前の「住菱重工ビル」爆破事件で死刑判決を受けた2人が登場する。
昔の仲間が起こした人質テロ事件に絡んで釈放される。
2人は死刑廃止運動団体に「仲間を説得し自首させる」と約束して出獄する。
しかし、1人はすぐにテロリストにひょう変する。
「死刑廃止論という体制側のお人好しを味方につけ延命工作をしながら、復しゅうのチャンスを待っていた」と発言する。そして、人質を殺していくというストーリー。
うみの会のメンバーらは、以下の主張を展開した。
- ・明らかに三菱重工爆破事件で2人の死刑囚(再審請求中)がモデル。
- ・まるで彼らがテロ集団によって奪還されるのを待って死刑廃止運動をしているようだ。
- ・早期処刑の世論をあおる。
- ・死刑廃止運動を、現実を知らない夢想家の集団のように描いている。
東京の団体にも呼び掛け、1989年10月初めに集英社に抗議した。
そして、以下の要求をした。
(1)謝罪文掲載
(2)作品「マーダーライセンス牙(きば)」を単行本化しない
(3)10月号の回収
集英社は1989年12月号の「マーダーライセンス牙」のページに、「スーパージャンプ」編集部と作者の平松伸二さんの連名で「読者の皆さまへ」とする文を掲載した。
「死刑囚2人の権利、名誉を傷つけ、運動してきた人々を侮辱した」と謝罪した。
「雑誌の回収はできない」としながらも「単行本化しない」とする確認書を交わした。
スーパージャンプ発行人の西村繁男氏は、以下のような趣旨のコメントを出した。
- ・モデルの資料をナマで使うなど未熟、不注意
- ・実在の事件とフィクションを混同させた。
- ・作者は主人公を活躍させることに重点をおいて創作している。
- ・特別な思想性はない。
- ・『牙』の休載、打ち切りは考えていない。